Movies, Music and English

映画字幕ボランティアなどをやっている森野智子のブログです。記事はさしあたりTogetterまとめの再録中心となります。

『ノートルダムの鐘』のクロード・フロローの役職について~②原作・四季ミュージカル編:聖職者フロローは優秀どころの騒ぎじゃない!?

今回の記事では、まず原作、四季ミュージカルおよびその元になったアメリカ版ミュージカルにおけるフロローの地位を考察します。そして、原作を中心に、フロローの過去や人となりについて紹介します。

ちょっとだけ四季ミュージカルのネタバレあります。

 原作、四季(=アメリカ版)ミュージカルではいずれもフロローは聖職者なわけですが、具体的にどのくらいの地位にあったのか。
フロローの役職を指す言葉としては、「司教補佐」「副司教」などメディアによって様々な言葉が使われています。ですが、これは恐らくは翻訳の際に訳を担当された方が違う訳し方をしたというだけのことで、原文に立ち戻れば話はかなりシンプルです。

 

フランス語原文では、フロローを指す言葉として用いられているのはarchidiacre(英語ではarchdeacon)とDom(英語も同じスペリング)です。Domは聖職者全般に使える敬称なので、フロローの地位を考える上で重要になるのはarchidiacreの方です。

 

本題に入る前に、現在のカトリック教会における聖職者の地位をみておきましょう。以下、地位の高い順に並べます。

 

ローマ教皇(バチカン市国にいらっしゃるあの方です)

 

枢機卿(ローマ教皇の最高顧問)

 

③司教
大司教区という、ある程度大きい地域の頂点に立つ聖職者。大司教区には司教座聖堂(カテドラル、大聖堂)があり、司教はそこにある司教座で司式を行う。

 

④司祭
大司教区の傘下にある教会でミサを執り行う、司教の補佐をするなどの役割を担う。

 

助祭
司祭を補助する役割。上の①~④までは他宗派からの改宗した既婚の聖職者場合を除き妻帯が認められていないが、助祭は司祭への昇進のない終身助祭になれば結婚ができる。

 
 

archidiacreは現在は廃止されてしまった役職で、このうち③と④の間に位置します。教会の財政や聖職者達の統率にあたっていたようです。一時は司教に匹敵する権限さえ持っていたようなのですが、『ノートルダム』の時代(1482年)頃には権利は制限される傾向にあったようです。

 

Archdeacon - Wikipedia, the free encyclopedia

 

なお、アニメ映画『ノートルダムの鐘』の冒頭で判事フロローのカジモド殺しを咎める聖職者も、元の英語版ではArchdeaconと呼称されています。日本語訳では「司祭」となっていますが、そもそも現在の日本カトリック教会にArchdeaconに相当する役職がないため定訳が存在しないのと、司教の下の役職なので広義の司祭には違いないということでわかりやすく「司祭」としたのだろうと思われます。

 

さしあたりは、「原作と四季(アメリカ版)ミュージカルのフロローは司教の次に偉い人。アニメ版のあの人も同じ地位」と理解しておけばいいのではないでしょうか。

 

では、次に聖職者フロローの来歴と人となりを見ていきます。

 

と言っても、四季ミュージカルのフロローについては冒頭の歌でだいたい説明されてしまうので、こちらを見ていただければ充分かと思います。

morisato-snow.hatenablog.com

 

原作のフロローについては、原作第4編がほぼフロローとカジモドのこれまでの人生で、かつフロローについて触れた部分の方が比率が大きいという形になっています。

 

まず、フロローは親の顔も覚えていないほどに幼い頃から大学に入れられ、そこで16才の頃にはひとかどの神学者と議論ができるほどの学識を身につけ、18歳の頃には神学・法学・医学・芸術の4課程をすっかり頭に入れていたと言います。
これがどのぐらい凄いことかを把握するためには、こちらが参考になります。

 

 
このサイトによると、
「人文学の学士になるには6~8年、医学は3年、法学は10年近くかかり、最も時間のかかる神学では15年を要することもあった。」
とのことです。
 

…はい、もはや原作フロローの学歴は「凄い」というレベルを超越して、「無理」という感じですね(^^;

 

そもそも大学に入るのにラテン語が必須なら、フロローは親の顔もわからない頃に既にフランス語とラテン語の両方を身に付けていたことになりますし、各学部を修了するのにかかる平均の年数から考えたら、フロローは最低でも常人の2倍程度の速度で知識を身につけていった計算になります。

 

そんな超天才のフロローですが、19歳の両親が疫病で亡くなり、歳の離れた弟のジャンを育てることになります。
その溺愛ぶりはかなりのものでしたが、溺愛が過ぎたのか、ジャンは不道徳な不良学生に成長してしまいます。

 

フロローは20歳のときに、史上最年少でノートルダム大聖堂付きの司祭になりますが、ちょうどこの頃カジモドを引き取ります。
その経緯は「ジプシーによって大聖堂前に捨てられ、心ない人々に溺死させられるところだったカジモドをフロロー自ら名乗り出て引き取る」というもの。アニメ映画で判事(大臣)フロローがカジモドに聞かせていた嘘が、原作における真実なのです。
なお、アニメ映画や四季(アメリカ版)ミュージカルと異なり、フロローに引き取られたときのカジモドは赤ん坊でなく4歳の子供です。原作『ノートルダム・ド・パリ』のメインのストーリーはフロローとカジモドの出会いから16年後、カジモド20歳フロロー36歳のときの出来事になります。
四季ミュージカルのオーディションページによるとフロローは50代なので、ミュージカル冒頭のフロローの年齢が原作本編時間軸のフロローの年齢とほぼ一致する形になりますね。

 

なお、四季(アメリカ版)ミュージカルにおける「ジャン・フロローがカジモドの父親」という設定は、原作には存在しません。カジモドを託すことで兄が過ちに気づくことを願う、という賢さを感じさせることもなく、どちらかというとコミックリリーフのようなキャラです。…末路は流石ユーゴー作品という感じですが…。 

 

次回の更新では、また四季ミュージカルの楽曲紹介に戻りたいと思います。

牛歩の歩みですが、また読みにきてくださると嬉しいです。