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Movies, Music and English

映画字幕ボランティアなどをやっている森野智子のブログです。記事はさしあたりTogetterまとめの再録中心となります。

『ノートルダムの鐘』のクロード・フロローの役職について~①映画編:実はフロローは判事じゃなかった!?

今回の記事は二部構成です。まず前半では、ディズニー映画、でのフロローの地位について考察していきたいと思います。後半(後日アップ)では、四季ミュージカルおよびその元になったアメリカ版ミュージカル、そして原作でのフロローの地位について考察します。

 だから、ディズニー映画のフロローは最高裁判事でしょ?と皆さんお考えになりますよね。

 

確かに、映画の冒頭でジプシーの男(恐らくカジモドの父親)が「フロロー判事だ!(Judge Claude Frollo!)」と呼んでいますからね。

 

ですが、原語版の映画を注意深く見ていくと、実はフロローは冒頭の20年前の場面以外では「Judge」とは呼ばれていないことがわかります。
フロローに対する呼称として用いられているのは、
・Master(カジモド→フロロー)
・Sir(フィーバス&部下の兵士→フロロー。目上の男性に対するごく一般的な敬称)
・Your honor(道化の祭りでエスメラルダ→フロロー、裁判官に対する敬称、日本語版では省略)
・Minister Frollo(エスメラルダがノートルダム大聖堂に逃げ込んだ際に司祭さん→フロロー、『罪の炎』の途中に割り込んできた兵士→フロロー、日本語版では前者は「彼」、後者は「フロロー判事」)
といったものがあります。

 

この中で特に注目する必要があるのがMinisterです。辞書を引いてみると一番最初に出てくる意味は、「大臣」です。
http://ejje.weblio.jp/content/Minister

 

そして、Minister of Justiceというと…「法務大臣」という意味になります。

 

つまり、フロローは「20年前は最高裁判事だったけれど、本編時間軸までに昇進して大臣になっている」可能性があるわけです。

 

フロローの立場に関しては、『アニメで読む世界史2』(山川出版社)という本で詳しく考察されています。

 

 

アニメで読む世界史〈2〉

アニメで読む世界史〈2〉

 

 

この本によれば、パリには高等法院とシャトレ裁判所という二つの裁判所があり、それぞれ以下の役割を持っていたそうです。

 

・高等法院
パリの最高司法組織で、シャトレ裁判所に対しては上級裁判所の立場。14世紀にはフランス全土、『ノートルダム』の時代(1482年)でもかなり広範囲の地域に対して影響力を持っていた。パリでの王権を代表する存在。

 

・シャトレ裁判所
パリや周辺地域での民事、刑事事件、治安維持や暴動対策などを担当。16世紀には20名の巡査を連れて街を巡回する騎馬代官職が新設される。

 

『アニメで読む世界史2』ではこの騎馬代官職がフロローのイメージに非常に近いとしつつも、フロローの居室が高等法院(Palace of Justice)にあることと矛盾している可能性を指摘しています。

 

ですが、この辺りについても、20年前と映画本編時間軸とでフロローの役職が変わっていると考えれば辻褄が合います。

 

まず、20年前の「Judge」と呼ばれていた頃のフロローは、シャトレ裁判所の騎馬代官職だったのでしょう。連行先がPalace of Justiceだったことはフロローの台詞からはっきりしていますが、フロローがそこの所属なのかまでは明示されていませんので。
ただ、そもそも騎馬代官職が15世紀当時に既にあったという設定自体がディズニーの創作ですので、この物語の騎馬代官職は高等法院の所属だったことになっている可能性もあります。

 

そして、本編時間軸のフロローは高等法院に居室を持ち、Ministerと呼称されていますので、高等法院に所属する法務大臣なのでしょう。ならばなぜ自ら馬に乗ってジプシーを捜索しているのだ、と言われてしまいそうですが、逆にエスメラルダの捜索シーン以外では本編時間軸のフロローは馬車で移動しています。皆さんご存じの通りエスメラルダを捜索しているときのフロローは前夜のヘルファイアーで色々とテンションがおかしくなっているので、騎馬代官職時代に戻ったつもりであれこれやってしまっているのかもしれません。

 

なお、日本語吹き替え版の方では、「大臣」という呼称は使われていません。まとめておくと、
・ご主人様(カジモド→フロロー、Masterに相当)
・閣下(フィーバス→フロロー。英語でSirと言っているときにこの訳があたっていることが多いが、そもそも日本語ではSirを訳出していないことも多い)
・フロロー様(部下の兵士→フロロー。「大聖堂の全てのドアに見張りをつけろ」というフロローの命令を他の兵士達に伝えている場面で使用。英語原文は「Frollo's order, guards at every door.」なのでそもそも敬称がない)
・フロロー判事(冒頭の場面だけでなく、『罪の炎』の場面に乱入してきた兵士が口にする「Minister Frollo, the gypsy has escaped.」も「フロロー判事、あのジプシーが逃げました」と訳されている)

 

といった感じです。

 

つまり、日本語版ではMinister=大臣という要素を排して、「判事」に統一する形で訳しているということになりそうです。

 

なぜこうなったのか、というのに関して、私なりに二つ仮説を立ててみました。

 

①単純に分かりやすくするため。
②ディズニーで大臣といえばジャファーだから。

 

この二つ目の説を検証するために、先日フロローとジャファーの呼び方として何が定着しているのかを調べるアンケートを取りました。

 

他の呼び方:蛇大臣、給食当番(サルタンの衣装時限定)、ジャファー様

 

 

 

他の呼び方:フロロー様、ヤンデレジジイ、変態爺さん

 

結果から考えると、さほど「ジャファー=大臣」は定着していない感じですね。「王位を狙う悪い奴」というざっくりした捉え方をされていて、身分が国務大臣であるということにまではさほど注目が集まっていないような気がします。

 

むしろフロローの方が、訳が「判事」に統一されたことにより分かりやすいキャッチコピーを得ることができ、『ノートルダムの鐘』自体がマイナー扱いされている中でも一定の存在感を得ることができているといった感じです。

 

ちなみにこのMinisterという呼称にはもう一つ、聖職者に対する敬称という意味があります。フロローを法権力の代表者という立場に置きながらも、原作の聖職者の雰囲気を残すことが出来るように、敢えて単なる裁判官ではなく大臣と呼ばれる立場の人物とした、という可能性もありそうな気がします。

 

聖職者としての原作フロローの考察は、また次回の更新で行います。四季ミュの予習としては、そちらの方がさらに参考になるかも。