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Movies, Music and English

映画字幕ボランティアなどをやっている森野智子のブログです。記事はさしあたりTogetterまとめの再録中心となります。

マレフィセント~『眠れる森の美女』との違いと関係とミュージカル性

2016年7月8日放送予定の『マレフィセント』についての記事です。
最初に言っておきたいのですが…この作品、「アニメ映画『眠れる森の美女』のマレフィセントの真実を描いた物語」といったキャッチコピーがついていますが、実際にはそうではありません。
キャラクターの名前がアニメ映画と同じでも内実が全く違うキャラもいますし、名前自体が変更されているキャラもいます。
ストーリーにも物語開始当初から細かな違いがありますし、中盤以降は全く異なる展開になります。

 

以下では、まず具体的なストーリーの相違点を概観し、それから「『マレフィセント』は『眠れる森の美女』の何なのか?」についての私なりの答えを示します。それから、最後に英語小ネタについて『ミュージカル性』という観点から語ります。

ネタバレだらけになりますので、情報をシャットアウトした状態で本編を観賞したい方は今はお進みにならないことをお薦めします。映画を観終わってから、また読みに来てくださいね。

逆に、「一回観たけどテレビ放送の前におさらいをしておきたい」という方、「未見だけど先に見処を予習したい」という方には、ぜひぜひお読みいただきたいです。

(1) 『マレフィセント』と『眠れる森の美女』の違い

 

では、まず『マレフィセント』と『眠れる森の美女』の違いを、ストーリーを追いながら説明します。

 

マレフィセントと、ステファン(オーロラ姫の父王)の過去が描かれている。

マレフィセントは、ムーアという妖精の国に住む、大きな翼を持った妖精。一方、ステファンは隣にある人間の王国に住む貧しい少年でした。共に孤児であることなどからふたりは互いに親近感を覚え、友達、そして恋人へと関係を深めていきます。
しかし、ステファンは次第に野心にとりつかれ、マレフィセントに眠り薬を飲ませて翼を切り取り、それを持ち帰って王に見せることで跡継ぎの地位を得ます。
これらは全て今作にしか存在しない描写で、アニメ映画ではマレフィセントの過去もステファンの過去も一切が不明です。

 

マレフィセントの呪いの内容が違う。

手先のカラスであるディアヴァルの偵察により、ステファンが王になったこと、先王の娘である王妃との間に娘をもうけたことを知ったマレフィセントは、その娘・オーロラ姫の洗礼の祝いの席に乗り込んで呪いをかけます。このシーン、映像的にはアニメ映画『眠れる森の美女』そのままで圧巻なのですが、細かくみると、
「アニメ映画ではマレフィセントはオーロラ姫が糸車の針で指を刺すと死ぬ呪いをかけたが、今作では死のような眠りに就く呪いをかけている」
「呪いの解除条件(真実の愛のキス)を指定したのはアニメ映画ではメリーウェザー(まだ贈り物をしていなかった青い妖精)だが、今作ではマレフィセント本人」という極めて大きな違いがあります。
また、個人的な見解になりますが、①のような経緯を受けてのことなので、呪いを「眠り」としたのは、眠り薬で自分を罠にはめたステファンへの意趣返しの意味もあったのではないかな、と思います。

 
③三妖精の名前と性格が別物。

アニメ映画ではフローラ(赤)、フォーナ(緑)、メリーウェザー(青)の三人の妖精が、森の奥深くの小屋でオーロラ姫を平民の娘・ブライアローズとして育てます。
ですが、この妖精たち、今作ではノットグラス(ピンク)・シスルウィット(青)・フリットル(緑)と名前が変更されています。
彼女たちは魔法なしでは家事がほとんどできず、オーロラ姫に泥のついたままのニンジンや蜘蛛やらを食事として与えたり、オーロラ姫が崖から落ちそうになっているにも関わらず自分達のことに夢中になって口喧嘩を続けたりと、およそ子どもの世話役に相応しい人物ではありません。
アニメ映画の方では、三人の妖精は非常に愛情深いです。でも、魔法なしではほとんど家事ができない点は、今回の実写版とほぼ同じなんですよね(^^;④⑤で説明する通り、今作ではオーロラ姫がちゃんと育った理由が用意されているのですが、アニメ映画の方を見直すと「あの家事スキルで今までどうやってブライアローズを育ててたんだ!?」とツッコミたくなってしまうかも!?
なお、ノットグラス役を演じられたイメルダ・スタウントンさんは、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』でアンブリッジ先生役を演じておられます。どちらもテーマカラーがピンクでキャラ的にも似た部分があるので、比べてみると面白いかもしれません。

 
マレフィセントの家来の数及び性質が違う。

アニメ映画のマレフィセントには、小鬼のような家来が多数います。ですが、彼らは頭があまり良くなくて、オーロラ姫の成長を考慮に入れずに16年間ゆりかごの中の赤ちゃんを調べていました。そのことに16年間気づかなかったマレフィセントマレフィセントですけど(爆)
事実に気づいた段階でお供のカラスにオーロラ姫を探させ、ようやく見つけ出すことに成功します。
今作ではマレフィセントは、基本的にはムーアの守護者です。オーロラ姫に呪いをかけた後、ムーアを自分の色に染めますが、そこに住まう人々に命令し何かをさせることはありません。
そんな彼女に仕える唯一の存在が、カラスのディアヴァル。マレフィセントの魔法で人や狼(鳥を食べるという理由で嫌がっていましたが)、馬や「あの生き物」に姿を変えて縦横無尽に活躍します。
そして、そのディアヴァルが割とあっさりオーロラ姫を見つけてしまうことが、以降の物語の方向性を大きく変えていきます。
でもまあ、「カラスはできる子」という点に関しては、アニメも実写版も共通してますね(^-^ゞ

 
⑤オーロラ姫とマレフィセントの関係が違う。
三妖精たちの子育てのあまりのアレさに見ていられなくなって(爆)、マレフィセントはディアヴァルを介してオーロラ姫の世話をするようになります。やがて成長し、マレフィセントと初めて対面したオーロラ姫は、彼女を「フェアリー・ゴッドマザー(親のように自分を見守ってくれる妖精のこと)」と読んで心からの親愛の情を示します。
いつしかオーロラ姫を娘のように愛するようになっていたマレフィセントは、呪いの解除を試みますが、自らが設定した解除条件「真実の愛のキス以外では呪いは決して解けない」が仇となり失敗してしまいます。

 

⑥ステファン王のあり方と王妃との関係が違う。

アニメ映画のステファン王は明るく陽気な人物でしたが、今作のステファン王はマレフィセントを倒すことに執着し、ほとんど狂気に近い状態に陥っていきます。
アニメ映画ではオーロラ姫の帰還まで健在だった王妃も、今作では病死。しかも、ステファン王はマレフィセントの翼を飾った部屋に閉じ籠り、王妃の死に目に会おうとすらしません。
この場面で、ステファン王が「私がマレフィセントと話をしているのがわからんのか」と言って家来を追い返すのですが、映画では既にこの段階でマレフィセントの心にオーロラ姫への愛情が芽生えていることが描写されています。憎しみに囚われたまま前に進めなくなっているのは自分だけなのに、それに気づいてすらいない…そら恐ろしささえ覚えてしまう場面です。
こんなステファン王を、国民はどう見ていたのでしょうか?私見になりますが、恐らくは「王の資質なし」と思われていたでしょう。それも、マレフィセントを異常に警戒するようになってからではなく、あのオーロラ姫の誕生祝いのときから。と言うのも、そもそもステファンはマレフィセントを倒した証拠として翼を先王に献上することになり王位を得たのですから、マレフィセントが生きているという時点で信用はガタ落ちです。しかも、このときステファンはオーロラ姫の命乞いのためにマレフィセントに跪くということまでしているので…。

 
⑦ 城を茨で覆った者が違う。

今作では城を茨で覆ったのは、マレフィセントではなくステファン。幼い頃の交流から妖精の弱点が鉄であることを知っていたステファンは、自らの城を鉄の茨で覆い尽くすのです。
マレフィセントも傷ついた心を抱えムーアに閉じ籠る際にムーアを茨で覆っていますが、オーロラ姫を茨の中に招き入れています。

 

映画未見の方がいらっしゃるかもしれませんので、以下は敢えて駆け足にしますね。

 
⑧オーロラ姫が目覚めるきっかけが違う。
 
⑨ドラゴンに変身する人物が違う。
 
⑩最終的な結末が全く違う。
 

この物語における悪とは何者なのか、古い言い伝えに残る「ムーアと人間の王国を結ぶ者」とは誰なのか、そしてこの物語の語り部の正体は…!?ぜひ、放送でご確認ください。

(2) 『マレフィセント』と『眠れる森の美女』の関係

では次に、『マレフィセント』は『眠れる森の美女』の何なのか?についての、私なりの見解を述べますね。
私の考えでは…ずばり、「ifもの」です。
映画冒頭のマレフィセントとステファンの関係ですが、私はぎりぎり『眠れる森の美女』の世界線でもありなのではないかな、と思います。
ただ、『眠れる森の美女』の方のステファンなら、普通に王妃(先王の娘)と恋に落ちて、マレフィセントにもきちんと筋を通して別れを告げるくらいのことはするでしょうけれど…そのあたりは男女の間のことですから、当事者同士で捉え方が違うというのもままありそうです。
では、どこが最大の分岐点なのか?と考えると…それは、「マレフィセント側がオーロラ姫を割とあっさり見つけてしまった」ときだと思います。
アニメ映画にも今作にも共通するのですが、マレフィセントはオーロラ姫に呪いをかけるときに「出会う全ての者から愛される娘となるだろう」と言ってるんですよね。
オーロラ姫と接触したことで、その効果がディアヴァルやマレフィセント本人にも及んでしまったら?というのが『マレフィセント』の世界なのではないでしょうか。
実際、アニメ映画ではカラスは三妖精たちの魔法の光をきっかけにオーロラ姫の住処を特定しており、マレフィセントも呪いをかけて以降オーロラ姫とは直接は接触していません。
でも、そんな魔法の力なんて関係なしにマレフィセントとオーロラ姫の間に絆が芽生えたと考えた方がロマンチックな気もしますし、あまりに話が違うので分岐ではなくパラレルワールドと捉えた方がすっきりする方も多いのではないかと思います。
ぜひ、ご自分の中での『マレフィセント』の位置付けを探してみてくださいね。
…うーん、でも、やっぱり一番納得がいかないのは公式の「『眠れる森の美女』の真実」って解釈だったり(^^;

 

(3) 『マレフィセント』のミュージカル性

最後に、『マレフィセント』の英語小ネタについて。
この映画はミュージカルではないのですが、とてもミュージカル的だな、と思った場面が一ヶ所ありました。
それは、マレフィセントが初めてオーロラ姫をムーアに連れていく直前の場面。
眠らせて宙に浮かせたオーロラ姫を見つめて、マレフィセントは「I wonder.」と呟きます。
この『I Wonder』というのは、『眠れる森の美女』で成長したオーロラ姫(ブライアローズ)がスクリーンに登場して一番最初に歌う歌の題名(邦題『私は不思議』)です。
しかもこの台詞、Iを強調して言っているんですよね。
ここが『眠れる森の美女』から分岐して独自の展開に入る大きなターニングポイントであることも考え合わせると、「これは私の物語」というマレフィセントの主役宣言のようにも聞こえます。
といったことを踏まえてエンドロールのアルト版『Once Upon a Dream』を聞くと、深みが一層増して聞こえるのではないかと思います。
(って、ちゃんとエンドロールやってくれるのかな…あの放送枠だと若干信用ならない)。

 

あ、あともう一つだけ!
私映画で泣くこと滅多にないんですけど(実は『ノートルダムの鐘』ですら泣いてはいない)、この映画のとあるシーンでは泣いちゃいました!
3D版を観たものですから、涙で眼鏡が曇って大変なことになるレベルで(^^;
というわけで大変お薦めですので、ぜひぜひご覧ください!!